子どもの頃、なぜ市場は同一業種の店がこんなにダブってあるのか不思議に思った
ことがあります。
当時はまだ市場全盛期で、灘区内各所に市場があり、たいてい同市場内に同業種は
2店舗くらいあって、水道筋あたりになると肉屋さんとかが7〜8店舗とかあるわけです。
そごうのデパ地下だって肉屋は大井しかなかったのです。(当時は)
さんちかだって八百丑しかないのです。(当時は)
それが水道筋ときたら、西から水野、土居、大倉、梅田、土居東、水野、中西、山本、山地…
って何軒あるねん、つーくらいあるわけで、もう、どっちが豊かかってことは子ども心に
わかりましたね。
よりどりみどり。めくるめく焼豚&コロッケ。
商品の豊かさではなく商店の豊かさです。
その反面、こんなに同じもの売ってる店が多くてケンカせえへんねやろか、なんて若干
心配にもなったものです。
当時、親について買い物に行くと、同業種でも微妙に使い分けていたように思います。
焼豚はあの店、コロッケはあの店みたいな感じで。
その影響で今でもあっちで買ったりこっちで買ったり右往左往しています。
まったく浮気な客です。
お豆腐屋さんも市場に数軒あります。
例えば今晩は豆腐チャンプルでも作ろうかと思いたったとき。
え?そんなものつくろうとは思い立たないって?
まあ思い立ってくださいよ。
ご存知のように沖縄の郷土料理である豆腐チャンプルに使われる沖縄豆腐「島豆腐」は、
縄で縛れるくらいとても固い豆腐です。
ひょっとしたら沖縄では豆腐の角に頭をぶつけて死ぬ人がいるかもしれない
というくらい固い。
固いがゆえに、炒めていても水が出ない。崩れない。
これを日本の豆腐でやると、水切りしたりなにかととめんどくさい。
しかし、灘の市場はこんなニーズにも応えてくれます。
畑原市場の前野豆腐店の「バリ固木綿豆腐」であります。
これが、島豆腐なみに固いんですわ。
三匹のこぶたならこの豆腐で家を作っちゃうかもしれないくらい固い。
シンデレラならこの豆腐につまづいて、ガラスの靴が割れちゃうくらい固い。
ま、それは言いすぎですね。
とにかくこうやって手でグワシとつかんでもビクともしないくらい固い。
それでずっしりと重い。
「カチカチのん欲しいいう人もおるし、ちょっと固いのん欲しいいう人もおるし、
柔らかめの固いのん欲しいいう人もあるし、木綿の固さも4〜5段階くらいあるよ」
とご主人。
柔らかめの固いのんって柔らかいのか固いのかどっちやねん、て感じですが、
市場のお客さんもなかなかわがままなようです。
「無造作に水に浸けてるみたいやけど、実は固さごとに並べてるねん。手前が固いの奥のが柔らかいの」
おお、そうやったんや!
そういう陳列スキルは市場マニアにはたまらないっス。
で、固さの違いって何の違いなんですか?
「型に入れたときの端っこが一番固いねん。中心が柔らかい。
それを切って柔らかい豆腐と固い豆腐にわけるねん」
なるほどねえ。
「むちゃくちゃ固い豆腐はよう出るね。沖縄の炒めもんとかに使うねんて」
そうそう、それですよそれ。
さすが南島と縁が深い街。チャンプルユースの需要も高いようです。
てことで、畑原市場のバリカタ木綿 で作ったゴーヤチャンプルは、水切りをしなくとも
とてもうまく仕上がります。
沖縄と灘を結ぶ「沖灘メニュー」なのであります。
たまに近所のこの店でも使用されていますです。ハイ。