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2008年7月26日(土曜日)

底抜け!痛快!!船成金の館(50)

カテゴリー: - dr-franky @ 12時23分11秒

 「船成金」の館は出来上がったが、銀次郎の人生はまだまだつづく。
要所要所でナダのまちと交錯しながら。遂に大河ドラマの様相を呈して
きたこの項、引き続き歩付き合いの程、宜しくお願いします。

 大正10年の暮れ、銀次郎は、旧居留地116番の神戸商業会議所へ出向
いた。
 
 商業会議所は、元独逸倶楽部の赤煉瓦の建物に入居していた。バルコ
ニーが廻った植民地風の外観だ。

 鳴り物入りで大同団結した国際汽船の業績も、加盟各社の劇的な経営
改善には程遠い有様であった。
 また、明治40年から10年以上の月日と巨費を投じて整備された新港突
堤は閑古鳥が鳴き、宝の持ち腐れといってもいいようなありさまだった。

 「やはり、神戸の町の経済が動かなければ、港も海運も潤わん」。銀
次郎だけでなく、他の商議所のメンバーも同様の見方だった。

 銀次郎が会議室へ入ると、旧知の大沢商会の森田金蔵が居た。森田は
但馬・美方出身で、亜米利加で5年間下積みで辛酸を舐めた経験もある。
 その日は、商議所がその年の夏に立ち上げた「生糸市場設置委員会」
の最終の話し合いの日だったのだ。

 森田の郷里・但馬は養蚕・製糸が盛んなことで知られていた。森田が
5歳の時に死に別れた父親は、横浜へ但馬の生糸を売り込みに行った先
で客死した、ということを銀次郎も伝え聞いていた。

 明治初めから、但馬や丹後・山城、大和の畿内でも、農村での換金商
品として養蚕・製糸に注目が集まり、篤志家らが出資して(家内工業に
毛の生えた程度の規模・内容とはいえ)、製糸場が各地に建設された。
 しかし、そうした産地からの製品は神戸へ積み出されず、幕末から生
糸貿易商が活動していた横浜へ送り出されていた。
 神戸でも明治の開港間もない頃から、生糸貿易を軌道に乗せようと民
間が努力してはいたが、せっかく明治29年に開設された国の生糸検査所
も、取り扱い高不振で数年後に閉鎖されてしまった。投機の対象でもあ
る生糸を扱う業者には、それなりの経験とともに堅固な資本基盤も必要
だったが、そうした要件を満たす貿易商が神戸に根付いていなかったの
も、神戸が挫折した要因であった。

 だが、畿内での蚕糸製造が設備投資も進み生産高が伸びるにつれて、
「運賃が安く上る神戸から海外へ出したい」という要望が産地側から出
るようになった。
 
 その声に搬送したのが森田ら商議所の有志で、委員会を立ち上げて
「シルクの夢よ、もう一度」とばかりに、神戸経済界の起死回生の一
策として、「神戸に生糸市場を開設しよう」と県や市に提言しようと
していたのだ。
 「ようやっとまとめられましたな」銀次郎が森田に声をかけた。
「いやいや、勝田さん、大変なのはこれからですよ。何しろ、神戸には
生糸の経験の蓄積が無い。海外の商社も、横浜の生糸検査所の格付証書
が無いと相手にしません。まだまだ前途多難、あちこちへ御支援をお願
いしなくてはならないです。」森田の眼差しは遠くへ向けられていた。

 翌年も、厳しい情勢は相変わらずだった。
 山下亀三郎ですら、船員の給与や退職金を支払えない窮地に立たされ、
せっかく手中にした台湾航路の権利を、ライバル会社に「惜譲」して二
百万円を捻出して、会社の大リストラを行い、「山下汽船、倒産」とい
う局面を切り抜ける始末。
 先行きの見通しの付かない中、銀次郎も金策に駆け回っていた。                              (この項、つづく)
 扇港之図(「神戸税関海陸連絡運輸設備概要」より)


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