ある日、私はナダク某所のアジトでnaddist氏から指令を受けた。
「原田界隈の近代建築や町並みの見学会を行うことになった。ところで
今回の君への指令だが、町歩きのナビゲーターをやってもらう」。
「今回は、どういった所を取り上げるのでしょう」。
「ナダ駅舎を基点に、ブンカ軸をキーにコースを組む。今回は、
1箇所、建物内部の見学に協力してくださるオーナーさんが居られる。」
「それは何処の方で」
「旧近美の下の産婦人科のK先生の邸だ」
「えっ、あのK先生の・・・」。
そう、「原田のジェームス邸」が急に私に接近してきた。
内部見学の下打ち合わせのため、naddist氏の協力者ミスターMが、
既にK博士に渡りをつけているという。
思わぬところから、私は「原田のジェームス邸」を訪問する機会
を得ることになった。
晩夏の、ある土曜日の昼下がり、指定された時間に、久しぶりに
(なにしろ、いつの間にか私は就職を果たし、大震災も起きて数年
過ぎているのだから!)、私はK博士の邸を訪ねた。
大きな重々しい門扉が開き、妙齢のK夫人が出迎えてくださった。
外からしか見たことがなかったが、庭木も丁寧に手入れされ、鮮
やかな花々で彩られている。ここの一画だけは世界が違うように思
った。
玄関のところには、こうした邸宅にはつきものの、デザイン上の
あそびというか、手洗い場風のしつらえがあり、ライオン君が取り
付いている。
私は上のほうを見上げた。
銀色のドーム屋根は相変わらずとってつけたような感じだが、
ファサードは一見すると昔と変わらないようにも思えた。
玄関ドアは、喫茶店なんかについていそうな、格子状にガラスが
はまったタイプのものが入っている。これはオリジナルではないの
かもしれない。
いよいよ、私は、応接間へ通された。 (この項つづく)