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2007年12月13日(木曜日)

43日目 傾いた喫茶店物語(3)

カテゴリー: - naddist @ 12時45分00秒

(前回までのお話はこちら→「42日目 傾いた喫茶店物語(2)」

「傾いた家」の真骨頂は、やはり内部空間です。
そして2階がこそが、もっとも傾きを感じることのできる空間。
現在2階はパーティスペースとして使用されています。
では禁断の2階へとご案内しましょう。
まずはらせん階段で軽く三半規管がかく乱されます。
なんとなくクラッとくる感じ。
忘年会に参加した入社2年目のOLが
「なんか私酔っちゃったみたい」
くらいのほろ酔い気分のクラッとくる感じ。

2階への階段

上のフロアに上がります。
いきなり壁のレンガが傾いています。
壁どころか、柱も、窓も。
そしてテーブル面とイタリー製のアンティークなランプと、
窓の外の六甲模型だけが水平垂直を保っています。
これでかなりグラっときます。
忘年会に参加した入社12年目のOLに酔った勢いで
「私…部長の事…前から好きだったんです…」
って告白されたぐらいグラっとくる感じ。
なんとなく足元もおぼつかなくなって、ノンアルコールで千鳥足気分が
楽しめます。

傾いた壁

そのうち料理が下階から運ばれてくるわけです。
自慢のデミグラスソースがたっぷりかかった名物のロールキャベツ、
定番のグルドチキンなどレストランスタイルのおいしいパーティ
料理に混じって、とある料理が運ばれてきました。
その料理がさらに来店者の心をグラグラと、いやグラングランと
揺さぶり、ついに傾き過ぎた既成概念が臨界点に達して
音をたてて崩れていきます。

エビのペパーミントマヨ和え

「エビのペパーミントジンマヨネーズ和え」
もうドキドキするほどありえない色なわけです。
もうバクバクするほど意外な味なわけです。
忘年会に参加した入社22年目のOLが泥酔した勢いで
2次会のカラオケボックスでレベッカのNOKKOになりきって
ヘッドバンギングしながら熱唱するくらい、頭の中がグラン
グランするわけです。

もうこの時点で、かなりの浮遊感。
顔が自然とヘラヘラしてきます。
そしていよいよとどめ。
「傾いたグラス」の登場です。

傾いたグラス

入社32年目の海千山千のOLもおそらくこれで折れちゃうはずです。
微妙に壁の傾きと角度が違うところが、かなりクラクラきます。
傾いているというより、ゆがんで見えるのですよ。グラスが。
肉眼なのに魚眼レンズで世の中を見ている感じというか、
水の中にいるような世界の歪み具合によって「この世にいながらあの世感」
を体感することができます。
水平であるべきものが水平でない。
垂直であるべきものが垂直でない。
赤いはずのエビが赤くない。
人間はなんて危うい存在基盤の上で生かされているのだろう。
ああ、なんて僕はちっぽけな存在なんだろう。
ひょっとしたら、翌日から六甲道の駅前で相田みつお風の詩を書いて
売り始める人もいるかもしれません。
「水平じゃなくても、美しいんだね。 よしを」
「赤くても、青くても、黄色でも、エビなんだね。 かずを」
「傾いているって、生きていくってことなんだね。 たかを」

この傾いたグラスもあの忌わしい震災によって多くが割れてしまいました。
「特注やからね、割れたらおわりやねん」

割れたら終わりやねん…

灘区にはこんなことわざがあります。
「いつまでもあると思うな ハイジよさこい
ここには確かに「六甲道」が残っています。
でも、それが永遠であるか誰にも分からないのです。


普段は使えない2階スペースですが、忘年会、新年会などのパーティスペース
として利用することができます。
また、毎年クリスマス期間のみこの「傾いた2階」でクリスマスディナーを
楽しむことができます。
(12/22.23.24.25 クリスマスミニコース1850円〜)
「アレ」の2007年度版も出来てマス(12/12〜売り切れ次第終了)

※傾いたグラスは貴重品なので、通常は使用されません
 今回は特別に出していただきました。


2007年12月6日(木曜日)

42日目 傾いた喫茶店物語(2)

カテゴリー: - naddist @ 13時00分26秒

(前回までのお話はこちら→「41日目 傾いた喫茶店物語(1)」

今から37年前、ちょうど高度経済成長の仕上げイベント、
日本万博博覧会が開かれた時代に「傾いた家」は「喫茶ミニ」
として鮮烈な灘デビューを果たします。
店というよりパビリオン的な気配がそこはかとなく漂うのは、
やはりその時代の空気だったのでしょうか。
とにかくワクワクする建物であったことは確かです。
確かにキワモノかもしれない。
街の文脈を無視したKYなデザインかもしれない。
でもなにかこう、愛嬌がある。そして哀愁もある。
ぎゅっと胸に抱きしめたくなる。
同じ山手幹線沿いでも東灘区では成立しない、危うさをたたえた
その灘的なたたずまいに心が打たれるのです。
イタリアのデザイナーによってデザインされた桜口のイタリア広場にある
冷たい表情の「傾いたオブジェ」と比べていただきたい。
傾いたオブジェはこちらが本家なのです。

やがて当時の店長(ママ)の甥っ子さんが店を手伝い始めます。
それが現在のレードルのマスターです。
大学を卒業後フランス料理を勉強した彼は、やがて喫茶メニューを
超えた本格的料理を繰り出し始めます。
そして店名は「ラグタイム」に。

「でもこんな建物やろ。みんな『ラブタイム』言いよんねん。
 ラブホテルと間違えてるねんな。『ラグタイム』やっちゅうねん」

笑いながら当時を振り返るマスター。
ド派手な外観、いかにもな城郭風のデザイン。
確かに「ラブ」と呼びたくなる気持ちもわからないでもありません。
なんと昭和62年の住宅地図までも『ラブタイム』表記になっている始末。

「当時はエスカルゴとかも出しててん。
 そんなんこの辺で食べられる店なかったで」

前回の記事にいただいたコメントのように当時は「小エビのコキール」など
フレンチなメニューが並んでいたとのこと。
傾いた家でエスカルゴ。
どピンクな店でエスカルゴ。
「ラブ」タイムでエスカルゴ。
誰が想像できましょうか。
しかし、その魂は現在のメニューに息づいています。

当時は2階の客席も稼働しており、傾いた窓からは六甲模型、そして遠く
六甲の山並みも望めました。

2階の窓からの景色

現在は右端の窓が潰され、バックヤードになっています。

潰された西の窓

客席にはアンティークなランプシェード。

イタリア製のランプシェード

「イタリア製やねん。でも震災で壊れてもた」
壊れたものは照明器具だけではありませんでした。
                              (つづく)


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