水道筋の[月光レコード]が閉店する。
水道筋からは本屋、レコード店という「文化部門」が完全になくなることになる。
時代の流れとは言え、これでいいのか?水道筋。
というか、レコード店自体が灘区内からなくなった。
今残ってるのは六甲道の[ベスト]くらいだろうか。
初めて自分の小遣いでレコードを買ったのは、阪神大石の高架下にあった
BSショッピングセンター2階の[大石音響]だった。
小学生の頃はレコードを買うという行為がとてもオトナなような気がして、
レコードを手に取り、レジまで持っていくのに相当時間がかかったような気が
する。さらに女性アイドルのレコードを買うことなんざ、純朴な男のコにとって、
相当なハードルな訳ですよ。
なにかイケナイことをしているような気分になるわけですよ。
アン・ルイスが青谷のステラマリスインターナショナルスクールに在籍していた
ことは、海星で非常勤講師をしていた母から聞いて知っていた。
「灘区の学校に通っていたアイドル」
それだけで僕の心は海星のチャイムのようにディンドンと高鳴った。
今回ご紹介する、彼女の13枚目のシングル『甘い予感』は、後に『女はそれ
を我慢できない』『ラ・セゾン』などのロック歌謡へと向かう前のソフト路線最後の
楽曲で、作詞作曲・松任谷由実、編曲・松任谷正隆の佳曲。
Wow Wow Wow
ふとつけたの カーラジオ
流れてくるのは ビーチボーイズ
それまでアカぬけない歌謡ポップスから一転してのニューミュージック。
ユーミンが思い描いたであろう湘南の空気と、アンが吸った神戸の空気が
不思議とリンクする。
夏がゆく頃に 恋も終わるって
だれがきめた 悲しいこと
私 信じない
かつては夏になるとインターナショナルスクール(後カナディアンアカデミーに吸収)
の「お姉さん達」が長峰の堰堤に飛び込む姿が見られたそうだ。
そのすらりと伸びた白い肢体と青い目に、灘っ子のハートはわしづかみにされたという。
そんな灘の夏をふと思い出させてくれるフレーズだ。
35年前に戻る。
ドキドキしながらBSショッピングセンターのエスカレーターを駆け上がり大石音響へ。
摩耶山のカエデのような葉っぱを髪につけて、伏し目がちのアンのジャケットを見つ
けて手に取った。
買うのか?このレコード買っていいのか?オレ。
誰かに見つかったらどうしよう。
長い時間が経ったような気がする。
レジのおじさんにもにらまれたような気がする。
でも結局は買えずに、横にあった太川陽介の『ルイルイ』を買ってしまったのだった。
これが私のレコード購入初体験だった。
そして後に『六本木心中』を聞いた時「青谷のアン」は僕の中からいなくなった。