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2011年1月14日(金曜日)

その街のこども、その街のはなし(3)

カテゴリー: - library @ 11時00分21秒


『その街のこども劇場版』予告編より「水道筋商店街往路」



勇治と美夏の胸の内を表しているかのような、照明が落とされた暗い
水道筋商店街のアーケードを二人は歩く。
スクリーンで薄暗いアーケードを見ていると、震災前の水道筋にタイム
スリップしたような感覚になった。リニューアルされた現在のアー
ケードに比べると薄暗かった震災前のアーケードの暗さに近いのかも
しれない。
震災後、壊れたアーケードは新しく改装するため撤去された。
アーケードが完成した1958年(昭和33)以来、実に37年振りに水道筋
から青空が見えた。
アーケードのない水道筋を歩いた。
どこか、初めて来た場所を歩いているような気がした。


昭和40年代の水道筋商店街(写真:灘中央地区まちづくり協議会)


アーケードの東端で立ち止まる二人。
「TUBOMAN」の看板がある一角はたこ焼き屋、小鳥屋、模型屋兼
駄菓子屋が軒を連ね、連日子どもたちでぎわった。
このあたりは「6丁目のアマゾン」とともに、「その街の子どもたち」
のプレイスポットだったのだ。
木製の引き戸を開けると、猫の匂いがする、数人入ると満員になる
模型屋のショーケースには、精巧な戦車や戦艦の模型の完成品が並
べられていた。ミリタリーもの以外にも、骸骨の手が硬貨をつかむ
貯金箱や、『ドボチョン一家』のフランケンなどの、ちょっとおど
ろおどろしい物も子どもたちの羨望の的だった。
「大人になったら、あの戦車売ってもらうねん!」
そう心に誓った子ども多かったに違いない。
おそらく誰もその願いが叶わないまま、2008年に模型屋は跡形も無く
なくなった。

模型屋の南隣には、水道筋最後の映画館があった。
水道筋は中央劇場、西灘東映、西灘第一、第二、摩耶劇場、灘松竹
など6つの映画館が並ぶ、神戸東部随一の「映画の街」だったのだが、
次々と閉館し、かろうじて西灘第一、第二劇場が「西灘シネマ・西灘
劇場」として生き残った。
「西灘シネマ・西灘劇場」は2つの顔を持つ。
成人系のシネマでは「馬を愛した牧場娘」「和服妻陵辱」などの成人
映画が、後期にはアート系作品を上映するようになった西灘劇場では
「12人の怒れる男」「草ぶきの学校」など文学的タイトルが並んだ。
まさに聖と俗。ジキルとハイド、あるいはアシュラ男爵的な映画館。
買い物帰りに、灘温泉帰りに、下駄履きで立ち寄れる映画館として、
神戸市内でも貴重な存在だったが、2004年5月31日に惜しまれながら
「水道筋の映画館」は閉館した。
跡地には何事も無かったかのように瀟洒なマンションが建った。

奇しくもこのドラマのロケが行われ、森山未來と佐藤江梨子が、映画
館跡近くで足を止めたのは、西灘劇場の地霊が彼らを呼び寄せたのか
もしれない。


『その街のこども劇場版』予告編より「水道筋商店街復路」


御影山手にある「美夏のおばあちゃん家」から、東遊園地を目指す二人
は再び水道筋へ。
行きは真っ暗だったアーケードは、明るくまばゆいばかりの光のトンネル
になっていた。
勇治と美夏は何かに吹っ切れたように水道筋を駆け抜ける。
もう立ち止まったりしなかった。
画面に映った「汽笛亭」がもともと瓦せんべい屋だったことも、子ども
であふれた模型屋があったことも、そしてこの地に映画館があったこと
も忘れるように。

無数の記憶と歴史が積層する水道筋も16回目の1.17を迎える。
(つづく)

劇場版『その街のこども』のシネ・リーブル神戸での上映は終了しましたが、
1月15日(土)〜1月18日(火)まで長田区の神戸映画資料館で上映されます。
1/15(土)19:30
1/16(日)19:30
1/17(月)・18日(火) 11:00、13:00、19:00

神戸映画資料館
http://kobe-eiga.net/



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