BASS & VOICE
Music / 発売: 2004/09 / 定価: ¥2500
SALLY’S RECORDS
※Amazonでの取り扱いはないようなので、
オフィシャルサイトにリンクしています。
すでに死語かもしれないが、きょう3月14日はホワイトデーだ。
バレンタインにチョコをもらったら、白いもの(マシュマロとか)をお返しすればいいといわれていて、
ロック聴き始めの、東北に住む12歳だった僕の周りでは
「ホワイトアルバムをあげたらいいっちゃ」などと、お返しする相手もいないくせに、おませなことを言うやつがいた。
ちなみに自分のことではない。僕はひそかにチョコをもらっていた。遠い過去のささやかな栄光であるが。
ホワイトアルバムとはもちろん、ビートルズが1968年に発表した真っ白なジャケの2枚組アルバムのこと。
名盤である。いや違うな。名曲満載の問題作というべきか。まあ、この際どっちでもいい。
こんな牧歌的な少年時代を思い起こしたのには理由がある。
“灘のホワイトアルバム”があった、と気付いたのだ。
天野SHO『BASS & VOICE』。
2004年秋に発表されたSHOさんのソロアルバム。
初の単独名義というだけでなく、文字通り「ソロ」作なのであって、
ここにはSHOさんの弾くベースと、SHOさんの歌しか基本的に入っていない。(※1)
ベース弾き語りという、ほかに類を見ないスタイルを震災の年から始めたSHOさんの
10年の歩みを刻む、愛と祈りに満ちたアルバムである。
太くまろやかな響きのアルペジオが、ゆるやかな大河のような音風景をつくる。
その水面を、抑えた歌い口の、しかし、熱情を奥深く湛えた歌がたゆたう。
編成はたしかにシンプル。けれどもそれだけでは語れない豊かなサウンドがある。
夜風に揺れるロウソクの灯が、煌々と輝く照明よりもずっとあたたかな幸福をもたらすように。
収録曲は、SHOさんがたびたびステージで演奏してきた、ロックやブルース、ポップスの名曲ばかり。
クラプトン・クラシックの「Wonderful Tonight」。B.B.キングのブルースバラード「Guess Who」。
ベイビーフェイスのスウィートな「Slow Jam」。映画『バグダッド・カフェ』のテーマ「Calling You」……(※2)
強力なイメージを持つ原曲をすべて「SHO’s World」として聴かせることができるのは、
“ベースと声だけ”という珍しさによるものだけでは決してない。
灘で生まれ育ち、40年近くベース1本、ロックやブルースに根ざした音を創り出してきた、
天野SHOその人の歩みがまるごと音に刻印されているからだ。
レコーディング場所を見てハッとした。「BLUE VALLEY STUDIO」とある。
ブルー・ヴァレイ……青谷ではないか。
そう、これはSHOさんの自宅スタジオで録られた作品なのだという。
灘人が、ホームグラウンドの灘で、自らの歩みを見つめ直した真っ白なアルバム。
聞き耳を立てるように、そっと耳を傾けたい。
ロック聴き始めの灘のローティーン諸君がちょっと背伸びして
「これあげるわ。聴いてみて」と、
ふだんはあゆやKAT-TUNを聴いている彼女にこのアルバムを手渡す。
そんなホワイトデーの校舎裏を想いながら。
(※1)曲によって、SHOさんの長年の仲間であるKAJAさん、HALKOさんらのコーラスのほか、
ギターとシンセサイザーがほんの少し色を添えている。
(※2)ほかに、SHOさんのハードロック・ルーツを垣間見せるジミヘンの「Stone Free」、
ドラマ「華麗なる一族」の挿入歌として再び人気を集めるイーグルス「Desperado」、
そしてビートルズの「Let It Be」など全11曲。