「たいへんや!たいへんや!」
「どないしたん?」
「タ、タカバシでポ、ポインター見てん!」
「うそつけ〜」
「ほんまや!ダンもアマギものっとったんや!」
「ホンマか!で、どっち行った!?」
「海の方に行った!」
「どこにかいじゅう出んのやろ!」
「まや山の地下から出てくるんちゃう?」
「いや、なだ浜やで!海からゴボゴボって!
あっこ石油タンクあるで!コワー!」
「コワーコワー!」
「コワーコワーコワー!」
昭和43年のある日、灘っ子たちに衝撃が走った。
ウルトラ警備隊が灘の街に…
当時、子ども達のハートをしっかりつかんでいた、超人気番組
「ウルトラセブン」。その中に出てくる「ウルトラ警備隊」は
灘っ子達にとっても憧れの的であった。
「ポインター」はウルトラ警備隊の誇る水陸両用高性能カー。
日本中の子ども達の人気を一身に受けた、超人気スーパーカーで
ある。
そのポインターが、なんと灘の街を走ったのだった。
ウルトラセブン第14・15話「ウルトラ警備隊西へ」は昭和42年頃
神戸でロケが行われた。もちろん灘区でも。
=地球がペダン星へ観測用ロケットを打ち上げた。
=侵略と勘違いしたペダン星人は地球へスパイを送り込んだ。
=それに気付いた地球防衛軍は、
=六甲山にある防衛センターで国際会議を行うことになった。
=ウルトラ警備隊もポインターで西へ向かった。
=シークレットハイウェイルート9を通って。
=♪ワンツー、スリフォ、ワンツー、スリフォ…
「シークレットハイウェイルート9」を疾走するポインターの撮影
は開通間もない六甲トンネルで行われた。
六甲トンネルの開通は昭和42年3月25日。まだ真新しく未来的な六甲
トンネルは日本を縦貫するシークレットハイウェイと呼んでもおか
しくない最新鋭のトンネルであった。そして基地の手前にあるこれ
また完成ホヤホヤの「新六甲大橋」をポインターは颯爽と駆け抜け
て行った。
=ペダン星のスパイは神戸に潜入した。
=ウルトラ警備隊の隊員達は灘区内に配備についた。
=アマギ隊員は「神戸つくばね会」に扮装し、六甲山へ。
=ソガ隊員は「マドロス」に扮装し、摩耶埠頭・摩耶大橋へ。
=アンヌ隊員は「ミカゲレーヌ」に扮装し…残念ながら北野町へ。
摩耶大橋は昭和41年6月2日、その後42年3月に摩耶埠頭が完成した。
もうおわかりだろうが、先ほどの「六甲トンネル」「新六甲大橋」
「摩耶大橋」「摩耶埠頭」、完成がすべて昭和41〜42年に集中して
いる。当時の助役(後市長)宮崎辰雄氏がTBS、いや円谷プロと癒
着があったかどうか定かではないが、ポートアイランド建設の序奏
として、神戸市が最新土木技術のプレゼンテーションのためにタイ
アップしたとも考えられる。
円谷プロ側としても、神戸が、いや灘区が世界に誇る、できたて
ほやほやの近代的土木構造物が、ウルトラセブンの近未来的設定に
ぴったり合致したので、ロケ地として選んだのであろう。
そして、作品中最も印象深いシーンへ。
=地球人が悪いのか?ペダン星人が悪いのか?
=侵略とは?平和とは?悪とは?正義とは?
=ついに、ペダン星の英知の結晶、
=スーパーロボット「キングジョー」が神戸港に現われる。
=目の前にはポートタワーが…。
=危うし!神戸…いや、灘区!
=セブン!頑張れ!神戸…いや、灘区のために!!
この作品が放映されたのは昭和43年。
アメリカのベトナム侵攻、沖縄の日本返還問題…。
とても子ども向け作品とは思えない、ぶ厚く重いテーマがシナリオ
の底辺を流れる。
…しかし、灘っ子達はそんな大人達の思い入れなんておかまいなし
なのだった。
ロケの次の日…
「見たで!見たで!ポインター近くで見てきたで〜!」
「うそ!ええなあ!どんなんどんなん?!」
「ポインターなぁ…近くでみたらなぁ…ブリキでできとったで」
「ブリキ?ポインターはブリキなん?」
「そうや、ポインターはブリキやねん」
「なんや、ブリキ…か…」
「そうや…」
「そうか…」
明けの明星が輝く頃…
灘っ子の見果てぬ近未来の夢は、アイスラッガーでぶち切られ、
灘の空に散っていった。