酒場では、幾多の思いつきや妄想が生まれ、飛び交う。
街の「なんかオモロいこと」というのは往々にして、
しかめっつらしいお役所的会議やもっともらしい広告代理店的コンセプトなんかよりも、
酒の勢いとホダラ話のドライブ感の中から生まれるのだ。
水道筋ミュージックストリートも雑談に枝葉が付き果実が実ったみたいなものだし、
最近じゃ、チンタ醉宵食堂が拠点となっている摩耶山のヒルクライムイベントもそうだろう。
灘愛溢れる数々の名・珍イベントを仕掛けてきたnaddist氏の発想だって、きっとそうに違いない。
酒場で「摩耶山から水道筋までケーブルカーを走らせる」計画を聞いたこともあるし、
泥酔すると、かなりの頻度で飛び出す灘区独立論というのもある。
そんな思いつきが、先日また一つ生まれた。
小坂忠さんの水道筋ライヴを観た後に流れた「汽笛亭」。メンツは4人。
ボーン・イン・尼崎で、現在は灘区在住のロック社会学者M氏、
その弟子筋で、やはりフロム尼崎のN氏。それからnaddist氏と僕。
少し下の世代になるN氏以外の3人の共通点といえば、
ビートル・マニア(最近の言葉ではビーヲタというらしいが)、
つまり、ビートルズをこよなく愛している、という点だ。
ビートルズというのは、ポピュラーミュージックを愛好する者にとって基本中の基本、
好きな曲の5曲や10曲、擦り切れるほど聴いたアルバムの2枚や3枚は、
世代に関わらず誰にでもあるものだと僕は長年信じていたのだけど、
どうも意外にそうでもないことが分かってきた。
「ロックを芸術まで高めた」だの「初めてロックが教科書に載った」だの、
音楽とは関係ない社会風俗的な評価によって「権威」に仕立て上げられ、
それが却って、新しいリスナーを遠ざけてしまったのじゃないか、と思う。
いや、そんなゲージュツとかキョーカショとかどうでもよくて、
単純に、むちゃくちゃポピュラリティの高い楽曲を量産しながら、
かつ、ほとんどアナーキーなまでに変態を重ねた
あんなカッコいいバンド(ユニット)がほかにあるか、という話なのだ。
その誕生から大ブレイクを経て、成長、自律、そして分裂と、あれほど見事に
バンドという生き物の足取りが凝縮された魅力的な集団はないじゃないか、と。
多くのビートル・マニアは、自分のビートルズ体験と重ね合わせて、
そういった一つひとつをウダウダ語りたいと思っている。
なのに、自分たちが思っているほどにはポピュラーじゃないもんだから、
常に欲求不満状態に置かれているのだ。
それが、その日は偶然、好きモノが揃った。
「ビートルズ・シネ・クラブの元会員で、グッズは今もすべて段ボールに保管してる」
と誇らしげに言うnaddist氏。
突然i-podを取り出し「これ聴いてよ。ディランが歌ってる『Yesterday』」と、
自分の2大アイドルの「融合」をどうだ!と言わんばかりに誇示するM氏。
話は、キンクスやホリーズ、サーチャーズやスウィンギング・ブルージーンズなど
他の60’s英国ビートバンドまで広がって、
「こうなったら、ビートルズ談議をする秘密クラブ的イベントを水道筋で定期的にやった方がいいですね」
「お、いいね、いいね」
「昔のレコードコンサートみたいな感じでやれたら楽しいやろうね」
「お、いいね、いいね」
と、大いに盛り上がった。ビートルズ体験のないN氏ですら、
「面白そうですね。僕は遠巻きに見ときたいですけど」
と、遠慮がちに賛意を示すほどであった。
ま、実現するか、酒場の妄想で終わるのかは、まだ分からないんだけれど。
●今日の灘ノオト:Sie Liebt Dich / the Beatles
と思ってたら、今月のレココレ特集が「赤の時代のビートルズベスト50曲」。投票1位は
「She Loves You」。さすがに誰でも知ってると思うので、ここはドイツ語バージョンを。