駄菓子屋や模型店が子供たちにとって欠かせないように、
大人の男にとって、安酒場は街の必需スポットである。
立ち飲みが、レトロでキッチュな、ある種「粋」な文化として認知されるずっと以前から、
灘の浜手の酒徒が、ごく当たり前の日常のひとコマとして通い続ける店の一つに
新在家の[ぐいぐい酒場 樫本]がある。
酒屋併設の本格店。初めて行ったのは10年近く前になるだろうか。
ドラマーの島田和夫さんとピアノ弾き井山あきのりさんのユニット「ブギウギ・ピアノ・ナイト」のライヴに
大西ユカリちゃんとともに出演させていただくことになり、ある日の昼間、
いまもあるのかどうか、六甲道勤労市民センターのスタジオでリハをした。
その帰り、「島やんが好きな巨大立ち飲みに連れて行ってくれるて」と
ユカリちゃんがうれしそうに言い、「巨大立ち飲みてナニ?」といぶかりながらついて行った。
そこは、ほんとうに巨大立ち飲みだった。
店の隅に「U」の字カウンターがあり、その背後にガランと大きな空間が広がっている。
装飾的な要素はほぼ何もない無骨なハコで、喩えていうなら、
香港の人たちが毎朝通う飲茶楼のようなホールの立ち飲みだった。
「ガランと」と書いたが、それは空間の取り方の話であって、
まだ日も暮れきらぬうちだというのに、店内は人いきれとざわめきでむせ返るほどだった。
たしかまだ20代で、ディープな立ち飲み経験などなかった俺は、その光景に内心圧倒された。
ステンレス製の、テーブルというより、ただの「台」を4人で囲むと、
注文を取りに来た「お姉さん」に、島田さんが手短に伝える。
ほどなく瓶ビール2本と、湯豆腐が4皿運ばれてきた。
「この豆腐を目当てに来てるんや」みたいなことを島田さんが言っていたような気がする。
喧騒のせいもあって、あとはどんな話をしたか、あまり覚えていない。
ただ、ふだん通い慣れていたバーとも居酒屋ともパブとも違う、
自分にとって明らかな「異文化」に、知らなかった街のひだを見る気がした。
憂歌団の歌に描かれるような大人の酒場の空気を体感し、感応した。
その[樫本]が今月でいったん閉め、なくなりはしないが、縮小する方向だと聞いた。
あの雰囲気をもう一度見ておこうと、何年かぶりに訪ねてみた。
午後4時前。まだ客はまばらで、アイドルタイムの眠たげな空気が漂うなか、
2人のお姉さんだけが、てきぱきと忙しそうに立ち働いている。
ポットから、大きめのコップになみなみと注がれる燗酒。コップは、西郷にある「福徳長」の銘入りだ。
アテはもちろん湯豆腐。槽に泳ぐ豆腐が手際よく掬われ、たっぷりの鰹節とネギの化粧を施されて出てくる。
聞くところによると、もう閉店した豆腐屋が、この店の名物のためだけに特別に豆腐を作り続けているらしい。
徐々に増え始めた常連客たちは、カウンターに陣取るやいなや、口々に改装の話を始める。
俺もお姉さんに少し話を聞いてみる。
「私らも引退するし、どんな感じになるか詳しくは知らんけど、だいぶん狭うするんやて。椅子も置いて。
この店?もう40年からになるわ。広なったんは、20年ぐらい前からちょっとずつ…」
残念やけどしゃあないわ、というようなサバサバした口ぶりだった。
カウンターに着いたのは初めてだったので、いままで気付かなかったが、
壁には1995年1月17日午前5時46分で止まったままの柱時計があった。
1杯で切り上げる。酒が280円、湯豆腐が150円で、しめて430円。
コップを干し、まだ明るい戸外へ出ると、[樫本]の真向かいに
近々オープン予定のおしゃれな「TACHINOMI」ができていた。
●今日の灘ノオト:はんか街のはんぱ女 / 憂歌団
憂歌団1stに収録のジャグバンド調ブルース。[樫本]の店内のような酒場の賑わいが挿入される。
「ハヤ君、お酒」と叫んでいるのは島田さんらしい。続けて花岡さんが「天王寺てエエとこやのう」と。


(継続中) - 11月23日
11月29日

え〜!
「灘のアレンタウン」新在家を象徴する、あの広さと鉄の男ライクな
テーブルがかっこいいのに!
新しい店も腕相撲禁止なんでしょうか?
近々行ってきます!!
ちなみにこのスタイルのお手軽湯豆腐を灘では「カシモト」と呼びます。
(用例「今日は時間無いから_にするで」)
Comment by naddist — 2008年4月16日(水曜日) @ 14時54分04秒
酒屋さんがやってるとこやね。
残念や。
酒屋さんのマークがなかなか素敵なんですよね!
Comment by コータロ- — 2008年4月17日(木曜日) @ 08時10分47秒
naddistさん
「腕相撲禁止」やったんですかw
鉄の男たちの酒場らしいルールですね。
貼り紙には、4月25日まで営業し、
改装後6月下旬オープン予定とありました。
コータローさん
酒屋さんのマーク…赤と青のやつでしたか。
記憶があやふやですが…。
「ぐいぐい酒場」という
直裁にしてポップなネーミングからして秀逸ですもんね。
Comment by MJ — 2008年4月17日(木曜日) @ 16時30分12秒
え”〜!!!!
ココロのオアシス、カシモトがっっっ!!!
最近やっと「ボトルキープ」を覚え、常連さんの仲間入り(つまりカウンターで飲める)になったのに!!!!
先月はそんなこと、言ってなかったのに!!!
残念な限りです。
これでまた「ウラ灘百選」が一つ消えてしまう〜(涙)
Comment by たん吉 — 2008年4月18日(金曜日) @ 11時13分53秒
ディープな「ココロのオアシス」ですねw さすがです。
貼り紙には「キープ中のボトルは25日までに終了してください」とありましたよ。
急がねば!
Comment by MJ — 2008年4月18日(金曜日) @ 17時31分17秒
MJさん、ありがとう。昨日、パルしんからそのまま阪神電車乗って行ってきました。もちろん湯豆腐とビール、コップ酒。語れるほど僕は知らんのだが。あ、神文館で『下山事件 最後の証言』も買いましたぜ。(笑)
Comment by 中村よお — 2008年4月19日(土曜日) @ 07時12分05秒
行かれましたか。よおさん好みの酒場ですもんね。
あ、僕は、十三・七芸で若松孝二の『実録・連合赤軍』観てきましたよ(笑)
きょうはパルしんに行く予定です。「超」の付く映画音痴なんですが、なぜか…
Comment by MJ — 2008年4月19日(土曜日) @ 08時39分31秒
パルしん、七芸…
灘にも気骨のある映画館が欲しいっす。。。
Comment by naddist — 2008年4月19日(土曜日) @ 09時38分21秒
naddistさん、ほんまやね。路面電車が復活するように映画館も復活できひんやろか?
Comment by 中村よお — 2008年4月20日(日曜日) @ 00時28分52秒
とりあえず、naddist presents 「大人の水道筋アーケード劇場」で、
ATG時代の若松孝二特集とか。
キッツいイベントになりそうですがw
Comment by MJ — 2008年4月20日(日曜日) @ 01時08分12秒
そのうち水道筋あたりで、シネマテークサロンができればいいなってことで
某氏と策略中です。
Comment by naddist — 2008年4月21日(月曜日) @ 12時49分20秒
約20年前、まだ以前の装いで、
「ぐいぐい酒場」の名前もなく。
湯豆腐に出汁昆布を浸して食べるのを
教えてもらい、少し大人・・オトナになった日でした。
Comment by びわんちゅ — 2008年4月22日(火曜日) @ 01時05分03秒
今日カシモトに行ってくるっす。
もちろんボトルは全部飲みほすぞ!(んで、また新しくキープしたりしてw)
行く時間が時間なんで、いっぱいになっているところを記録写真してきます。
CDに焼いて、永久保存版だっ!
Comment by たん吉 — 2008年4月22日(火曜日) @ 16時17分49秒
カシモトのご主人に話を伺うことができました。今の店舗はそのままテナントにして、奥の方に座れる居酒屋を作るとのことです。「立つのが辛い」というオールド常連さんの要望だそうです。
でも、今のカウンターや腕相撲禁止のテーブルは、たぶん廃棄となりそうです。
Comment by たん吉 — 2008年4月23日(水曜日) @ 11時02分15秒
びわんちゅさん
20年前の樫本、どんなだったか見てみたいです。
「お姉さん」方もずいぶんお若かったことでしょう。
たん吉さん
これは、ご苦労さまでした。
常連さんも高齢化が進んでいるのですね。
あのカウンターをもらい受けて、
灘区のどこかで立ち飲みやる人いませんかねえ…。
Comment by MJ — 2008年4月23日(水曜日) @ 16時28分08秒