近々、「灘文化堂」に入荷予定の1冊の本。
『ロバート・ジョンソン ブルース歌詞集』
本もCDも売れない時代、ましてやブルースと名の付く音楽など、
コマーシャリズムの極北に追いやられたこのご時勢に、
こういう本が出たこと自体うれしいが、
それが灘の出版社から、ということになれば
アフロアメリカン系ルーツミュージックの灘内革命的普及を目指す
「灘ノオト」としては、食いつかぬワケにはいかない。
昨秋の水道筋ミュージックストリートに協賛してくださって以来、
お話を聞きたいとずっと思っていた「万象堂」をようやく訪ねることができた。
灘北通で40年あまりの印刷会社を母体とし、
音楽・美術書、絵本などを手掛ける新しい出版社だが、
「自分がほんとに好きな本だけしか出しません」
という青年社長のココロイキが頼もしい。
その「ほんとに好きな」もののひとつが、ブルースなのである。
しかも、相当にディープで、よりプリミティブな戦前スタイルの。
「ロバート・ジョンソンの訳詞集なんてよく出したねって言われますよ(笑)。
理由はいろいろありますけど(※注)、ひと言でいうなら『好きだから』に尽きますよね。
サンハウス、それからロバート・Jr・ロックウッドあたりも大好きです。
テキサス系だと、やっぱりライトニン・ホプキンス。最高ですね」
──ですよねえ。僕は、シカゴものやモダンブルースを中心に聴いてきましたけど、
ロバジョンやロックウッド、ライトニンには、やっぱりシビれますもん。
「学生のころ、女の子とドライブ中にサニーボーイ・ウィリアムソンを流して、
止めてくれって言われたり(笑)。トム・ウェイツでもダメだったですねえ」
──あらら、トム・ウェイツもNGでしたか。うーん、カッコいいすけど、
80年代(?)のドライブデートには、たしかに微妙ですかねえ。
「僕はギター弾くんですけど、やっぱり好きなのは戦前の弾き語りスタイル。
ロバート・ペットウェイにトミー・マクレナン、あと、ランブリン・トーマスとか。
寝る時とかに聴きますよ。といっても寝つきがいいから、すぐ眠っちゃうんですけど(笑)」
──はあ、戦前の。えと、ロバート……ペット…何ですか?
「あ、ゴスペルがお好きなんですか。僕はゴスペルだと、スピリット・オブ・メンフィス・カルテット。
初めて聴いたときは衝撃でしたね。あの掛け合いのすさまじさといったら。
何年か前にコンプリート盤が出ましたよね。ドキュメントとかヤズーとかいったレーベルはご存知でしょう」
──あの…えーと、あの……。
いや、もうサイコーである。
続々出てくる戦前ブルースマンの名前は「誰それ?」のオンパレード。
分からなすぎて頭がクラクラするのが逆にうれしい。
ほんまに好きな人の、ほんまに好きな話というのは、聞いてるだけで楽しくなってくるのだ。
お歳をうかがえば、僕とさほど変わらない社長いわく、
「入口はビートルズですよ」
あ、そうなんですか。だったら一緒ですね。
いわれてみれば、1970年ごろのジョン・レノンみたいな丸眼鏡を掛けておられる。
「万人共通」といっていい入口から、アメリカ深南部、ミシシッピ・デルタにたどり着き、
その美しき泥沼に深く深く足を取られた男が、ここ灘にいる。
ブルースの灘内革命的普及は、静かに、ふつふつと進行しているのかもしれない。
(注)……そのあたりの興味深い理由については、リンク先の「編集後記」で書いておられますが、
後日、「灘文化堂」でも詳報するつもりです。
●今日の灘ノオト:Revolution 1/ the Beatles
ビートルズ後期におけるジョン・レノンのシンプルなブルース回帰志向が表れたトラック。とはいっても、
寝転がって歌を録ったり、セッションの断片を前衛的な「NO.9」に流用したり、「革命」も試みているが。