聖夜。山の向こう、北区は「八間蔵」でのクリスマスライヴ直前にその知らせは届いた。
ジェームス・ブラウン死去。
ぬおぉ。ゴッドファーザー・オブ・ソウル。ファンクの帝王。世界一の暴君。73歳だった(諸説あり)。
おハコのマントショーのように、マント掛けたったら生き返るんちゃうか…という軽口も虚しく。
振り返ってみれば、今年はソウル/R&B好きにとっては痛すぎる訃報続きであった。
ルー・ロウルズ。ミスターいぶし銀はサム・クック大先生の遺志を伝える盟友だった。
ウィルソン・ピケット。鋼の喉を持つ圧巻シャウターは、最後までマッチョなチンピラ風情を保った。
ビリー・プレストン。最もエキサイティングなファンキーオルガン奏者にして、ゴスペル・ソウルの体現者。
ルース・ブラウン。ダイナ・ワシントンの流れを汲むアクの強いブルースウーマンは愛称「ミス・リズム」。
ジェラルド・リヴァート。偉大な父親に勝るとも劣らぬ歌バカは、優れたプロデューサーでもあった。まだ40歳。
ソウルミュージックの輝かしい時代を築いた巨星たちが次々と堕ちてゆく。櫛の歯が抜け落ちるように。
「JB逝く」の報は今年最後の強烈すぎる一撃であった。
聖夜には似つかわしくないと知りつつ、ステージに少しだけ追悼の意を込めた。
翻って、灘の2006年はどうだったか。
ヌーベル六甲が取り壊された。
80年代おしゃれ六甲の象徴だったというレンガ調ビル(naddist12・4号参照)。
俺は90年代の姿しか知らないが、あやしげな迷宮の底へ酒場や音店をときどき訪ねた。
灘センター街の魚屋と果物屋が店を閉めた。水野家は斜向かいに移転。
店舗を押し退け商店街に面して建ったのは、またもやW田興産のマンション。チッ。
摩耶ケーブルがダウンした。
多くのクミンがヒヤヒヤしながら行く末を見守った。
存亡の危機を乗り越え見事に復活したのは、灘的にはもちろん神戸市的にも朗報だろう。
そしてJR灘駅舎。橋上化へ建て替え工事が始まった。
築70年とも80年ともいわれる老駅舎は、
小ぶりな中に昭和初期のエレガンスを漂わせていた。
多くのクミンが自らの中にある「時代」を投影し、失われゆく姿を惜しんだ。
いま気付いたが、この駅舎、JBと同世代なのだった。趣はまったく違うけれど。
時代は移ろい、街は変わる。
巨星の時代が過ぎ去るのも、ランドマークが消えるのも
それぞれに理由があり、事情がある。それは分かる。
去りゆくものを惜しみつつ、頭の隅に「エゴ」というイヤな言葉もちらつく。
独りよがりのマニア志向や懐古趣味に陥りたくはない。それも分かっている。
分かっているが、しかし…。
どこか急ぎすぎてはいないか。何か重大な見落としはないか。
なんともいえぬ違和感は単に歳を取ったということなのか。
年の瀬の感傷が押し寄せる。
●今日の灘ノオト:Cold Sweat / James Brown
原始ファンクの地熱たぎる圧倒的マスターピース。この68年のライヴ盤以降も
何千回と演奏され磨かれた。帝王の強靭なシャウトを灘の墓碑銘に捧ぐ。合掌。